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大阪地方裁判所 平成元年(ワ)5124号 判決

原告

吉野邦拓

右訴訟代理人弁護士

藤田一良

被告

ツツミ金属株式会社

右代表者代表取締役

堤直人

右訴訟代理人弁護士

藤田良昭

野村正義

縣郁太郎

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金五〇五〇万円及びこれに対する平成元年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生

次の交通事故((一)ないし(六)に記載の事故を以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 発生日時 昭和五〇年一一月一二日午後二時一〇分ころ

(二) 発生場所 大阪府豊中市庄内栄町三丁目一一番一三号付近路上

(三) 原告車 原告(昭和四四年一二月二五日生、右当時五歳一〇か月)運転の足踏み式自転車

(四) 被告車 被告の従業員原隆昭が被告の業務遂行として運転中の小型貨物自動車(大阪四四め五一七六号)

(五) 事故状況 西進中の被告車が、北進中の原告車に接触して転倒させた。

(六) 結果 原告は、右により左大腿骨骨折等の傷害を受けた。

2  被告の責任原因(使用者責任)

被告車の運転者原隆昭には、本件事故現場付近が小学校、幼稚園、保育所等のあるいわゆるスクールゾーンであり、本件事故現場は子供の通行量の多い道路であるにもかかわらず、徐行することなく、かつ、前方注視義務を怠った過失があるから、これにより生じた損害を賠償する責任(民法七〇九条)があるところ、請求原因1(四)のとおり、被告車は、被告の従業員である原が被告の業務遂行として運転中であったから、被告は、原が原告に加えた損害を賠償する責任(民法七一五条一項本文)を負う。

3  原告の症状、治療経過及び後遺障害

原告は、本件事故直後から上田外科病院に入院して観血的左大腿骨整復手術を受け、昭和五一年一月二二日退院し、同年八月三一日まで同病院に通院したが、その後の生活過程を通じて、左右の脚長差が生じた。原告が中学三年生となった昭和五九年一一月ころ、下肢痛等のため歩行困難となり、整骨院に二か月程通院し、牽引や電気マッサージ等の治療を受けたが、改善はみられず、同六〇年一月より三愛病院に通院して腰椎側弯症、腰仙椎間板ヘルニアとの診断を受けた。昭和六一年一月より同年三月まで庄内治療院に通院して股関節の外反変形と診断され、同年二月に若草第一病院に通院して左股関節外反変形、股関節腰椎伸展強直及び1.5センチメートルの下肢短縮との診断を受け、さらに、同年三月一二日より市立豊中病院に通院して椎間板ヘルニアとの診断を受け、同年七月一五日から同年八月一六日まで同病院に入院して椎間板ヘルニア治療のため髄核摘出手術を受けた。

椎間板ヘルニア及び腰椎(脊椎)側弯症は左右の脚長差及び股関節の外反変形によって生じたものであり、これらはいずれも本件事故によって生じた疾患である。

結局、昭和六二年一一月二日、次の後遺障害(これらは自賠法施行令別表後遺障害等級表の第八級二、第一二級七に該当する。)を残して原告の症状は固定した。

(一) 脚長差  右八七センチメートル・左八六センチメートル

(二) 大腿周径 右四五センチメートル・左四四センチメートル

(三) 下腿周径 右三六センチメートル・左三五センチメートル

(四) 左大腿骨頸部の外反変形

(五) 腰椎運動制限 F/B 四〇センチメートル

(六) 股関節運動制限 伸展 右二〇度・左一〇度

外旋 右五〇度・左六〇度

4  損害 五〇五〇万円

(一) 後遺障害による逸失利益

原告は、大学在学中(本件訴訟提起時)であるが、本件事故により前記の後遺障害を残し、その労働能力を四五パーセント喪失した。原告は、大学卒業後の二三歳時から就労を開始し、六七歳まで四四年間にわたり、本件事故がなければ平均四五六万一〇〇〇円(昭和六二年度賃金センサス大卒男子三〇ないし三四歳の平均賃金額)の収入を得られた蓋然性があるから、ホフマン式計算法により年五分の中間利息を控除して前記後遺障害による逸失利益を計算すると、四七〇〇万円を下らない。

4561000×0.45×22.923=4704万8311

(小数点以下切捨て)

(二) 慰謝料

本件障害の経過及び後遺障害による慰謝料は三〇〇万円を下らない。

(三) 治療費

前記治療経過を通じて原告の治療に要した治療費は五〇万円を下らない。

5  よって、原告は、被告に対し、民法七一五条一項本文に基づく損害賠償として五〇五〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成元年七月六日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1(交通事故の発生)の(一)ないし(六)の各事実はいずれも認める。

2  請求原因2(使用者責任)のうち、被告車運転者原の徐行義務違反及び前方不注視の過失は明らかに争わない。その余の事実はいずれも認める。

3  請求原因3(原告の症状、治療経過及び後遺障害)のうち、原告の症状及び治療経過は知らない。仮にこれらが事実としても、本件事故からの経過年月及び障害部位等からみて本件事故との間には因果関係がないから、本件事故による後遺障害の存在は否認する。

4  請求原因4(損害)はいずれも争う。

三  抗弁

1  調停の成立及び弁済

本件事故に関しては、原告と被告及び被告車運転者原との間において、昭和五二年五月三〇日、「本件交通事故による治療費・慰謝料・雑費・その他一切の損害賠償(後遺症分を含む)」につき調停が成立し(豊中簡易裁判所)、これに基づき、被告らは、原告に対し、同年六月末ころ、賠償金一四〇万円を支払った。

2  過失相殺

本件事故の発生には原告にも相当の過失があった。

3  消滅時効(民法七二四条)

(一)1 原告の傷害は、昭和五一年八月三一日、症状固定し、原告は、右損害及び加害者を知った。

2 被告は、右の時点から起算して三年が経過した後である平成元年八月一一日の本件第一回口頭弁論期日において、右の消滅時効を援用した。

(二)1 原告の外反変形や下肢短縮は、遅くとも昭和六一年二月二一日までに症状固定し、かつ、原告は、当該損害及び加害者を知った。

2 被告は、右の時点から起算して三年が経過した後である平成五年八月二六日の本件第二〇回口頭弁論期日において、右消滅時効を援用した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(調停の成立及び弁済)の各事実は認める。

2  抗弁2(過失相殺)の事実は否認する。

3  抗弁3(消滅時効)の(一)1及び(二)1の各事実は否認する。

五  再抗弁(抗弁1に対し)

調停における後遺障害に関する合意は、左臀部・左大腿部の手術創瘢痕の残存のみを自賠法基準の一四級五号に該当するものとし、早期に少額でなされたものであって、右の合意当時には請求原因2記載の原告の症状及び後遺障害の発生は予期し得ないものであった。

六  再抗弁に対する認否

否認する。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)の(一)ないし(六)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

二  請求原因2(使用者責任)

請求原因2(使用者責任)のうち、被告車運転者原に徐行義務違反及び前方不注視の過失があったことは被告が明らかに争わないからこれを自白したものとみなし、本件事故当時、原が被告の従業員であり、被告の業務遂行中であったことは当事者間に争いがない。

よって、被告は、原告に対し、民法七一五条一項本文に基づき、本件事故による損害を賠償する責任(使用者責任)を負う。

三  請求原因3(原告の症状、治療経過及び後遺障害)

1  原告の症状及び治療経過

(一)  甲第四号証の一及び二、証人安積正記の証言並びに鑑定の結果によれば、原告は、本件事故当日から上田外科病院に入院し、左大腿骨骨折の診断のもとに手術を受け、ギプス包帯固定の後、翌昭和五一年一月二二日退院し、その後、固定金属の抜去のため再入院して抜釘術を受け、同年八月三一日、左臀部・左大腿部の手術創瘢痕を残して治癒した旨の後遺障害診断書を得て通院を終了したことが認められる。

(二)  証人吉野信子の証言によれば、原告は、小学生時代、夜間に足の痛みを訴えることがあり、近所の整骨院で診察を受けたことが三回程度あるが、いずれも異常なしとの診断により特に治療はなされなかったことが認められ、同証人の証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告は、中学三年の二学期ころまで何ら支障なく体育の授業に出席し、体育の成績が他の教科と比べて劣ることもなかったことが認められる。

(三)  甲第五号証、乙第一号証、原告本人尋問及び鑑定の各結果によれば、原告が中学三年在学中の昭和五九年一一月ころから、急にそれまでにない強い腰痛と左下肢の疼痛が出現したため体育の授業を休むようになり、同六〇年二月一八日から同年一一月二九日まで三愛病院に通院し、その間に腰椎側弯、第4―5、第5―S1腰仙椎間板軟骨症との診断を受けたことが認められる。

(四)  証人吉野信子の証言によれば、原告は、昭和六一年になって、庄内治療院で整体術を受け、股関節の変形を指摘されたこと、同治療院の勧めにより、レントゲン撮影の上、本件事故当時に前記上田外科病院で治療を受けた安積医師の診察を受けるべく、次項記載の若草第一病院を受診したことが認められる。

(五)  甲第六号証、乙第三号証及び鑑定の結果によれば、原告は、昭和六一年一月二九日から同年二月二一日まで若草第一病院に通院し、右通院終了日に左股関節外反変形、股関節腰椎伸展強直の疑い、約1.5センチメートルの下肢短縮を認める旨の診断書の交付を受けたことが認められ、証人吉野信子の証言及び原告本人尋問の結果によれば、右通院期間中に、前記の安積医師らから右の各症状と本件事故との関連性は高いとの指摘を受けたこと、同医師らは、右の各症状のほか椎間板ヘルニアの存在をも指摘してその手術を勧め、原告に市立豊中病院を紹介したことが認められる。

(六)  甲第三、第七及び第八号証、乙第二号証の一ないし三並びに鑑定の結果によれば、原告は、昭和六一年三月一二日より市立豊中病院に通院し、腰椎椎間板ヘルニアとの診断の下、同年七月二四日に髄核摘出術を受け、後療法ののち、昭和六二年一一月二日、根性腰痛症、左股(左大腿骨頚部)外反変形との診断を受けて通院を終了したことが認められる。

(七)  原告の異常所見

(1) 鑑定の結果によれば、原告の異常所見として、次の事実が認められる。

①約1.3センチメートルの脚長差(左大腿骨の短縮)

②左股関節の外反股変形

③腰椎椎間板ヘルニア(右(六)の手術まで)

④脊椎の側弯(昭和六〇年二月ころ最も高度にみられたが、その後軽快に向かい、昭和六一年一月末ころには軽度になり、前記腰椎椎間板ヘルニアの手術後消失した。)

(2) 甲第三号証及び鑑定の結果によれば、原告の異常所見として、左下肢が、大腿部において約1.5センチメートル、下腿部において約二センチメートル、それぞれ右下肢より細いことが認められる。

(3) 甲第三号証、検甲第三号証の一ないし八及び原告本人尋問の結果によれば、原告の異常所見として、腰の前屈運動の制限(F/B四〇センチメートル)及び横転運動の制限が認められる。

2  本件事故と原告の異常所見との因果関係

(一)  約1.3センチメートルの脚長差

右1で認定した各事実及び鑑定の結果によれば、原告の右の脚長差は、先天的に存在したものとは考え難く、本件事故による左大腿骨骨折がその原因であると考えられるから、本件事故との間に因果関係が認められる。

(二)  左股関節の外反股変形

右1で認定した各事実及び鑑定の結果によれば、一般に外反股変形の原因としては、先天性股関節脱臼、くる病、脳性麻痺、脊髄性小児麻痺等が考えられるが、原告には右に列挙した各原因はいずれも存在せず、又、原告の外反股変形が左の股関節にだけ生じている点で先天的な異常とも考え難く、結局、本件事故による左大腿骨骨折の際に大腿骨が上下の二大骨片に分かれ、そのうち中枢側(上方)の骨片が筋肉に引っ張られて転位し、そのために大腿骨頚部が発育過程で変形してきたという可能性が最も高いことが認められる。よって、原告の左股関節の外反股変形は本件事故による異常所見とみるのが相当である。

(三)  腰椎椎間板ヘルニア

原告は、腰椎椎間板ヘルニアは左右の脚長差及び股関節の外反変形によって生じたものであると主張し、甲第九号証(野村正行医師作成の意見書)及び証人野村正行の証言には、原告の右主張に沿う部分がある。

しかし、甲第九号証は、右の因果関係を肯定する結論をかなり性急に断定する内容であるところ、その作成者である証人野村の証言によってもなお、その判断・考証過程が十分に明らかにされたものとは言い難く、にわかに採用することができない(さらに、甲第九号証及び証人野村の証言は、腰椎椎間板ヘルニアの原因は過重労働、スポーツ等の腰部荷重であるとする点、一〇代で発症することはないとする点において、後記の各証拠に照らし、信用できない。)。

むしろ、乙第四号証(乾道夫医師作成の意見書)、証人乾道夫の証言及び鑑定の結果によれば、腰椎椎間板ヘルニアの発生原因は未だ十分に解明されておらず、必ずしも腰部への負担加重に比例して発症率が高まるという傾向は認められないこと、一〇代における発症も稀ではないこと等からみて本件事故と原告の腰椎椎間板ヘルニアとの間の因果関係を肯定することは医学的に非常に困難であることが認められる。

よって、他に右の因果関係を肯定するに足りる証拠がない以上、原告の腰椎椎間板ヘルニアが本件事故によって生じたものと認めることはできない。

(四)  脊椎の側弯

右1で認定した各事実及び鑑定の結果によれば、原告に一時期存在した前記の脊椎側弯は、脚長差及び左股関節の外反股変形とは無関係であり、腰椎椎間板ヘルニア自体の症状であったものと認められる(これに反する甲第九号証及び証人野村正行の証言は、前記各証拠に照らして採用できない。)。

したがって、右認定のとおり腰椎椎間板ヘルニアが本件事故に起因するものとは認められない以上、本件事故と脊椎側弯との間にも因果関係を認めることはできない。

(五)  下肢の周囲径(太さ)の左右差

証人吉野信子の証言によれば、前記1(一)の上田外科病院への通院終了時、原告の左下肢は、右下肢よりも細くなっていたことが認められる。

他方、証人水野耕作の証言によれば、(1)筋肉は、原因の如何にかかわらず、使用頻度が低下すると萎縮して細くなる性質があり、したがって、片方の下肢の運動量が何らかの原因で低下すると、その下肢は他方より細くなること、(2)一旦細くなった下肢の運動量が元に回復した場合、その下肢の太さも回復するか否かは一概にいうことが出来ず、回復する場合としない場合とがあることが認められる。

また、鑑定の結果によれば、原告の下肢の周囲径(太さ)の左右差は、腰椎椎間板ヘルニアによる強い疼痛及び左下肢への放散痛が原因となって、左下肢の使用頻度の低下をもたらした結果として生じた可能性があることが認められる。

右認定の各事実に、本件事故からの経過時間の長さを合わせ考慮すれば、本件事故と前記認定の原告の下肢の周囲径(太さ)の左右差との間の因果関係を肯定することはできない。

(六)  腰の前屈運動及び横転運動の各制限

証人水野の証言によれば、原告の腰の前屈及び横転運動の制限は、右腰椎椎間板ヘルニアの後遺障害であることが認められるところ、右認定のとおり本件事故と腰椎椎間板ヘルニアとの因果関係を肯定することができない以上、本件事故と腰の前屈及び横転運動の制限との因果関係を肯定することはできない。

3  後遺障害性及び治療費・入通院慰謝料の発生事由

そこで、本件事故との因果関係が認められる右2(一)及び(二)の異常所見が、本件事故による後遺障害といえるか否か、又、治療費及び入通院慰謝料の発生事由といえるか否かを検討する。

(一)  約1.3センチメートルの脚長差

鑑定の結果によれば、原告の右脚長差は、①本件事故による左大腿骨骨折当時に生じたものか、あるいは、原告の成長とともに徐々に生じたものかは不明であること、②後者(成長とともに徐々に生じたもの)であるとしても、骨成長の常識からみて一六歳以後に生じたものではなく、今後さらに増大することもないことがそれぞれ認められるから、原告の右脚長差は、遅くとも、原告が一六歳に達してから約二か月が経過した昭和六一年二月二一日(前記若草第一病院への通院終了日)までには症状固定し、本件事故による後遺障害となったことが認められる。

なお、甲第一三号証の四、証人安積及び水野の各証言によれば、治療の対象となるのは、少なくとも二センチメートル以上の脚長差であることが認められるところ、原告の脚長差はその程度に達しておらず、その治療の必要性がなかったと考えられるから、治療費及び入通院慰謝料の発生事由とはならないものと認められる。

(二)  左股関節の外反股変形

乙第四号証及び鑑定の結果によれば、外反股変形は、形態異常を示す名称に過ぎず、股関節機能を障害する症状を伴ってはじめて病的といえること、原告の股関節の適合性は良好であって機能障害等の病的症状を示した所見は見当たらないことが認められる(原告は、股関節の運動制限として、伸展(右二〇度・左一〇度)及び外旋(右五〇度・左六〇度)の不均等を主張し、甲第三号証には右各数値の記載部分があるが、前記の各証拠に照らせば、右数値程度の不均等は正常可動域内のものであり、股関節の機能障害とはいえないことが認められるから、原告の右主張は採用しない。)。

したがって、原告には左股関節の外反股変形という形態異常はあるものの、これを本件事故の後遺障害と評価することはできない。また、右の外反股変形が病的症状を示した証拠がない以上、治療費及び入通院慰謝料の発生事由となるとも認められない。

四  右によれば、本件事故による損害賠償の対象となり得るのは、約1.3センチメートルの脚長差という後遺障害に基づく逸失利益及びこれに対する慰謝料のみとなるところ、それらの損害額(請求原因4)の認定はひとまずさておき、不法行為に基づく右の損害賠償請求権の消滅時効の抗弁(抗弁3(二))につき判断する。

1 前記認定(三3(一))のとおり、原告の右脚長差は、遅くとも、原告が一六歳に達してから約二か月が経過した昭和六一年二月二一日(若草第一病院への通院終了日)までには症状固定し、本件事故による後遺障害となったことが認められるところ、同じく前記認定(三1(五))のとおり、原告は、右同日、若草第一病院から約1.5センチメートルの下肢短縮を認める旨の診断書(甲第六号証)の交付を受け、又、同病院への通院期間中に、医師らから右の脚長差と本件事故との関連性は高いとの指摘を受けていたことがそれぞれ認められる。

右の各事実に照らせば、原告は、遅くとも昭和六一年二月二一日までには、前記脚長差の発生という損害及び加害者を知ったものと認められる。

2 被告が、右昭和六一年二月二一日から起算して三年が経過した後である平成五年八月二六日の本件第二〇回口頭弁論期日において、不法行為に基づく右の損害賠償請求権の消滅時効を援用したことは当裁判所に顕著である。

3 そうすると、右に認定した後遺障害に基づく損害については、消滅時効が完成したということになる。

五  以上のことから、損害額(請求原因4)を含め、その余の点につき判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判断する。

(裁判長裁判官林泰民 裁判官水野有子 裁判官村川浩史)

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